名大文芸サークルアップ板

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オ言葉屋サン(無修正ver.) - 御伽アリス

2014/01/10 (Fri) 01:18:47




 (正義ぶってなに格好つけてんの、このザコ)
 (顔気持ち悪いって自覚しろよちゃんと)
 (生きてる価値ない奴はさっさと死んじゃえば?)
 (初めからいない方が良かったんだよ、お前は)
 (殺してやろうか? 誰も悲しまないよ、どうせ)
 (友達とか一人くらいいないんですか?)
 (馬鹿で能無しのクズなんて必要ない)

  ***

 もしそうだとしたら、こんなひどい世界はないだろうな、と思った。
 言葉は、昔からそうやって、私を執拗に追いかけてきた。そうして私を縛ろうとしてきた。私は逃げることを決めた。誰もいない孤独な世界へ行こうとした。しかしそれでも言葉は私を呪い続けた。私は私を疑い始めた。もしかしたらその言葉とは、私自身のことなのではないか? ……私はそれを信じたくなかった。だからとにかく復讐を誓った。そのためには、誰かを自分の敵に仕立て上げれば良いと思った。
 ――どうして私が選ばれたのか、それは分からない。

 ナイフのように切りつける風が、赤くなって死んだ葉を次々と地面に叩き落とし、通りは見渡す限り暗く濁った炎に包まれている。街が冬に侵略されつつあるのが見える。
 深夜の裏通りに人影はない。響くのは私の靴音だけだ。道端に停まった黒い車の中にも、人の姿はない。私は灯りの消えた細い路地に入り、それとなく周りを見回してみる。どこかから猫か何かの低い鳴き声が一つ聞こえただけで、それ以外物音は全くしなかった。
 私は前を向いて、足を速める。道を進んでいくと、やがて探していた一軒のバーを見つけ、足を止める。中の薄暗い照明が店先をぼんやりと照らしていて、おそらくまだ営業しているのだろうが、店の入り口の扉にはすりガラスのような物が嵌まっていて中の様子は見えない。
 ふと、私は背後に風を感じて思わず振り返った。しかしそこにはやはり誰もいない。暗闇の先に目を凝らしてみるが不自然なほど何もない。何か嫌な予感を覚えながらも、店の方へと向き直る。少しの間躊躇した後、結局私はその店のドアを開けた。
 ギイ、と扉が軋み、中にいた人物がこちらを向く。
」いらっしゃいませ。今日はとても冷えるでしょう。さあ、中に入ってお好きな席にどうぞ「
 店長と思われる人物がそう言うと、風のせいか、私の後ろでドアが勢いよく閉まった。
 店内は暖かいが薄暗く、店にいるのは私を出迎えた店長らしき人物のみで他に客もいない。壁には小さな時計以外は何の飾り気もなく、がらんとした広い空間は何か寂しげだ。静かなジャズ音楽が流れ、ほのかな甘い香りが漂う店内は、どこか異様な雰囲気に満ちている。入口とは反対側に一つだけある窓から外の景色が見えるが、暗闇の中に佇む街並みがぼんやりと浮かび上がっているだけだ。
」上着はお預かり致しましょうか?「
 私がコートを脱ぐと、手でハンガーを示しながら店長が私にそう尋ねたが、私は手元に置いておくからその必要はない、と断った。店長は微笑み、失礼致しました、と小さく礼をした。
」お飲み物はいかが致しましょう?「
 私がカウンター席に座ると、店長がそう言う。私はたたんだコートを脇の椅子に置いてから、適当にカクテルを注文した。店長は慣れた手つきでそれを作り上げ、私の前に置いたグラスに注いで差し出す。
 店長がカクテルを作る間、その場は何となく居心地の悪い緊張感に包まれ、ひっそりと重い空気が満ち、カクテルを作る作業の音だけが妙なくらい耳に響いていた。出来上がったカクテルは綺麗な赤い色だったが、やや毒々しくも見えた。
 私は首に巻いていたマフラーを外し、やや乱れた襟元を直す。
」さてお客様、本日はどのようなご用件でいらしたのでしょうか?「
 と、唐突に店長は私に尋ねてきた。私が顔を上げると、店長は微笑んだ。私にはその顔が少し不気味に見えた。私は思わず、窓の方へ一瞬視線をそらす。
」こう申し上げては失礼かもしれませんが、お客様はただのお客様ではいらっしゃらないはずです「
 私は内心、店長の言葉に一瞬驚いたのだが、言っている意味がよく分からない、といったふうを装った。初対面の私のことを、店長が知っているはずがないのだ。
 この店は言葉の売買をしていると聞いて試しにやってきたのだ、と私は言った。店長はやや含みのある笑いを浮かべたまま答えた。
」ええ、その通りでございます。お客様も、何かお言葉をお探しでしょうか?「
 私は、その言葉の売買とはどういうことなのか分からないから、詳しく教えてほしい、と言った。
」かしこまりました。と申しましても、当店のサービスはごく単純なものでございます。ここで取り扱っていますのは言葉、もう少し正確な表現をするならば、言葉の影響力、ということになります。お持ちの言葉を譲って頂けるというお客様から言葉の力を買い取らせて頂き、そして集めた力を必要な方へと提供します。やっていることはこれだけです。実に単純な商売でしょう?「
 私は首を傾げ、頭を掻いた。店長が言う、言葉の影響力、とは何なのか。
」言葉の影響力について、詳しくお教え致しましょうか「
 店長は私の顔を見て、笑みを崩さずに言う。そして私が頷くより前に話し始める。
」通常、どんな言葉にも必ず影響力が存在します。影響とは、その言葉が世界に及ぼす何らかの効果です。お客様は言霊というものをご存じでしょうか「
 言霊という言葉だけならたまに聞くことがある、と私は答えた。
」世界には古くから、言葉に出すとその内容が本当になる、といった思想・信仰があるようです。簡単に言ってしまいますと言霊とはそういうもののことです。……お客様は言霊の力の存在をお信じになりますか?「
 さあ、よく分からない、と私は曖昧に返事をし、カクテルグラスを傾ける。店長はチラ、と私の背後の方へ一瞬だけ視線を投げ、そして話を続けた。
」あまり一般に信用されていることではないのですが、そういった力とは実際に存在するのです。つまり、言葉に出したことが本当にそうなるように、世界に働きかける霊力のようなものがあるのです。まあ通常、言霊の力とは微々たるものであって、普通の人間が日常生活において言葉に出したことが、いつも本当になるとは限りません。たとえば、今日の深夜二時、この店にある客がやって来る、などとわたくしが呟いたとしても、それがその通りになる保証などどこにもないはずです。そうでしょう?「
 私は振り返って店の壁に掛かった時計を見ようとしたが、ふと店長と目が合った瞬間、それをやめた。腕時計を確認すると午前二時十五分を示している。私がこの店に入ったのは何分前のことだっただろう? まだそれほど長い時間が経ったはずはないが、果たしてどれくらいが経過したのかと思うと、なぜかはっきりと分からない。十五分経ったと言われればそれくらいのような気もするし、そうでもない気もする。店に入った時、確かに私は壁の時計を見たはずだが、その針が示す時刻を見ていなかった……。
」当店にお任せ頂ければ、言葉の持つ言霊の力を最大限に増幅することが可能です。言葉をお買い上げ頂くとはそういうことです。つまり、どんな言葉でもその内容の通りに実現させることが可能になるというわけなのです「
 私は腕時計から目を離し、店長の方を見た。店長は微笑を浮かべている。私は気を取り直し、では逆に客が言葉を売り払ったらどうなるのか、と尋ねた。
」言葉をお売り頂いた場合、もちろん当店はそれに相応するだけの代金をお客様にお支払い致します。そしてその後は、お客様がその言葉をお使いになったとしても、影響力がないため何も起こらないということになります。たとえば、ここの店長は怪しい商売をしている犯罪者だ、などという言葉をお売り頂くとします「
 店長は微笑を崩さずに続ける。
」するとお客様がその言葉を今後お使いになったとしても、誰もその言葉を信用せず、聞く耳を持ちません。微々たるものであるとはいえ、通常であれば周りに対してその言葉が与えるはずのいくらかの影響が、全くなくなるのです。つまりその言葉は全くの嘘になります。独り言と同じことになるのです。もしその言葉が言われたとしても、犯罪者と言われたわたくしが傷付くことも苛立つこともなく、世間から非難されることもありません。ただし、注意して頂きたいのは、その言葉が嘘になるとは言っても、それはわたくしが犯罪者ではないことの裏付けにはならないということです。わたくしが犯罪者かどうかとは関係なく、その言葉の影響力がなくなるというだけです「
 店長の話し方は複雑で、私を少しの間混乱させた。まあ要するに、言葉を売ってしまえば、その言葉を言ったとしても言わないのと同じになるということらしい。
」ただ、言葉をお売り頂くことには、単なる小遣い稼ぎ以外にもお客様にとって多少のメリットがある場合がございます。たとえば先程の、犯罪者だ、という言葉ですが、売ってしまえば誰もその言葉に対して反応しませんので、いくら叫び続けたところでその内容については誰からも文句を言われることはありません。悪口や、非人道的な発言、公序良俗に反する言葉など、思う存分に吐き出してストレス発散をして頂くことで、お客様のお役に立てる場合もございます「
 なるほど、と短く呟き、私はまたグラスを傾けた。
」おかわりをご用意致しましょうか?「
 私はありがとう、と言い、店長は同じカクテルを作ってグラスに注ぐ。その間私は頬杖をつき、窓の外の景色をぼんやりと見ていた。

」さて、先程のお話の続きでございますが、言葉をお売り頂くにあたっては少々注意が必要でございます。一人の人間が一つの言葉について持つ影響力とは、通常微細なものです。ですから一つの言葉をお売り頂くことでお客様にお支払いする代金は、申し訳ありませんが決して高額ではありません。しかし人間とは、カネのかかる生き物でございますし、当店にはいろいろな事情を抱えたお客様も見えます。そういった、おカネの必要なお客様は一度に膨大な量の言葉の売却をご希望になるのですが、正直に申し上げまして、これは大変危険なことでございます「
 売った言葉は使えなくなるわけだから、売れば売るだけ不便になるだろうな、と私は言った。店長は頷く。
」その通りです。もうお気付きかと思いますが、ある言葉を使えないということは、ほとんどの人間にとって予想以上に生活に支障をきたすことなのです。言葉の影響力がなくなるということは、その言葉の意味するところが相手にまったく伝わらないということですから、大量に言葉をなくした場合、他人との意思疎通が困難になります。こうなりますと、分かりやすく申し上げまして、人間は独りになるのです。独りになった人間がどうなってしまうか、想像できますか?「
 私は店長にそう訊かれ、まああまり良いことにはならないだろう、と答え、クッとカクテルを喉に流し込む。
」以前、実際にそんなお客様がいらっしゃいました。すぐに大金を用意しなければいけないとかで、その方がお持ちだった全ての言葉を買い取ってほしいというご依頼でした。もちろんその時、わたくしは考え直されることをお勧めしたのですが、どうしてもとおっしゃられるので、危険を承知で全ての言葉を買い取らせて頂いたのです。その結果、言葉を失った人間というものができあがりました。お客様の個人的な生活を覗き見るというのはわたくしとしても大変気がひけたのですが、その時ばかりはその方のその後の様子を調査致しました。もちろん極秘にです。その結果分かったことは、人間は言葉なしで生きられないということです「
 店長はそこで言葉を切った。その客がどうなったのかは……まあだいたい察することができる。
」人間は、複雑な言葉を操る生き物ですが、それゆえに言葉に完全に依存しています。言葉なしでは人は独りです。そして、現代の社会において独りで生きていける人間は、世界中でもおそらく一握り、ほとんどいないと言って良いでしょう。大げさなことを申しますと、人間は言葉がなければ何かを思考することすらまともにはできないのです。当たり前と思われるかもしれませんが、人間にとって言葉とはそれくらい重要なライフツールなのです。……ところでお客様は、バベルの塔をご存じですか?「
 店長はいきなり話題を変えて、そう私に訊いてきた。……バベルの塔。たしか旧約聖書だったか。
」「創世記」にある物語です。太古の昔、人類は皆ある土地にまとまって暮らしており、同一の言語を用いていました。ある時人々は、世界の各地に人類が散らばることを免れるため、天にまで届く塔を築いて人類の名を上げることにしました。人類の名誉を築き、神にそれを示すことでその地に留まろうとしたのか、単純に大きな塔を建設してその中に住むことで一所にまとまろうとしたのか、はっきりとは分かりません。とにかく、そのような人間の傲慢な企みに神は怒り、人類の言語に混乱をもたらしました。お互いの言葉が通じなくなった人々は塔の建設をやめて世界の各地へ散らばることとなった、という話です。この物語が示すところは、人間にとって言葉がなくてはならないものである、ということだけではありません。言葉を失った人間、まあこの物語の場合は使用言語がバラバラになっただけですので正確には言葉を失ったとは言えませんが、意思疎通ができないことで言葉の価値がゼロに等しいということは変わりません。そういった人間たちは、どうなるか。そう、散らばっていくのです。つまり、言葉を失った人間は孤独なのです。独りになるのです。この物語はそのような人間の性質を表していると言えるのではないでしょうか「
 私は店長の話に頷いた。結局、言葉を失うこと、すなわち自らの言葉を売るということは、それだけ危険なことなのだ、と言いたいのだろう。
 私は、言葉を全て売ったその客はどのくらいの代金を受け取ったのか、と尋ねてみた。
」他のお客様の個人情報をお話しするのは当店の信用に関わりますので、詳しく申し上げることはできませんが、まあ一人の人間が一生、何不自由なく生活できるだけの金額以上であったということは言えるでしょう。ただし、言葉が持つ影響力には個人差がありますし、同一人物であってもその時々で言葉の力とは変動するものですので、どんなお客様でも同じような金額になるとは限りません。場合によってはもっと高額にもなりますし、少額にもなりましょう「
 ふむ、と私はまた頷いた。そして、もう一つ気になっていたことを店長に尋ねた。その全ての言葉を売りたいと言った客が来た夜も、今日と同じようにあなたは、何時にその客が来店する、と呟いたのか、と。その私の質問に、店長はにこやかな表情を崩さなかった。そして、私の前の空になったグラスを手で示して言った。
」お飲み物はいかがですか?「
 私はまたさっきと同じものを頼み、店長が何かを言うのを待った。
」おそらくお客様のご想像は当たっておいででしょう。しかし言葉にして申し上げるのはやめておきましょう。言霊ということもありますし、申し上げてしまえば本当になるかもしれません「
 店長はグラスに新しいカクテルを注ぎながら言った。あまり上手とは言えないはぐらかしだな、と思いながら私は腕を組んだ。そんな私の考えを店長は表情から読み取ったのか、こう付け足した。
」わたくしがしておりますのは言葉を扱う商売ですので、できれば嘘は申し上げたくないのです。ですからそのことについては、カクテルと一緒にお客様の胸の内に留めておいて頂ければと「
 店長の妙な言い回しに私は思わず笑い、頷いた。まあそれを追究したところでもう仕方のないことかもしれない。私はそのことについては触れないことにした。

」さて、せっかくですからもう少しご説明したいと思いますが、よろしいでしょうか「
 私は頷く。それを見て店長は微笑み、また話を始めた。
」言葉をお買い上げ頂く場合についてですが、これにも注意点がございます。それは、お買い上げ頂いた言葉の影響力は一回の使用限りでなくなってしまうということです。つまり、一度使ってしまえばその後には言葉の力は元通りに戻るのです。力は使えばなくなるものなのです。言葉というものはエネルギーを持っており、それを消費することで影響を及ぼします。先程も申しました通り、通常そのエネルギーは微々たるものです。ですから普段は影響力もほんのわずかなものとなりますし、消費するエネルギーも小規模です。ただし、基本的には何度も同じ言葉を使い続ければその言葉の力は弱まっていきます。同じことを何度も言われると、それに対してだんだん注意が向かなくなるでしょう。説得力もなくなります。それは言葉を使うごとに少しずつエネルギーが衰えているからです。そのようなエネルギーとして考えれば、言葉の影響力が一回の使用によって元に戻るということもご理解頂けると思います「
 そういうものと言うならば、まあそうなのだろう、と私は頷いた。そして店長はなおも話を続ける。
」もう一点、これは当たり前のことですが、一度言葉にしたことは覆すことはできません。影響力を持った言葉は、必ずその通りになるのです。その言葉の意味する内容が効果として現れてしまえば、その後ではどうすることもできません。すでに現れた効果、あるいはまだ現れていない効果を、より強い影響力を持つ言葉で塗り替えることは可能ですが、それでも一度起こってしまったものは取り返しがつかないのです。死んだ者が二度と甦らないのと同じことです。ですから言葉に出す内容には注意が必要であり、言葉をお買い上げ頂く際にはその点をご了承頂く必要があるのです「
 私はここで、気になっていた疑問を口にした。全ての言葉の影響力を無料で渡せ、という内容の言葉を買い、それを店長に対して使ったとしたら、店としては多大な損害を被ることになるだろう、と。店長は私のこの質問に余裕の表情を浮かべたまま答えた。
」お言葉ですがお客様、それは少々誤解をなさっています。わたくしは言葉を扱う商売をしております。ですから言葉とは商売道具であり、品物であって、わたくしは言葉に対して客観的な立場をとっております。つまりそういった言葉に関する世界からわたくしは除外された存在なのです。それゆえ、お買い上げ頂いた言葉はわたくしに対して直接には影響を与えません。それにそれが仮にわたくしに対して効果を及ぼすとしても、わたくしが代金をお支払いください、といった内容の言葉を使うことでその問題は解決します「
 なるほど、確かにその通りかもしれない、と私は納得した。

  ***

」私は、言葉とは謎解きゲームだと思うのです「
 と店長は私の顔を見て言った。私は店長に話の続きを促した。
」言葉とは記号です。つまり、ある法則・ルールに基づいて、何かの意味を表すために作られた道具なのです。人間はその記号を使って、お互いの意思疎通のために謎解きゲームを繰り返しているのです。今、お客様とわたくしの間で会話が成立しているのは、その謎解きゲームが成功しているからです。しかしそれは奇跡でも何でもありません。言葉とは所詮、あらかじめ決めておいたルールに従った記号化とその読み取りなのです。だからそんなものに支配されるのは本来おかしなことなのですが、先程も申しました通り人間は言葉に依存しがちな生き物です。言葉を操るはずの人間の方が、実は言葉に支配されているという場合もあります。お客様も、どうかその点はお気を付けください「
 私が頷くと、店長も頷き、そして私の目を見てこう付け加えた。
」わたくしは先程、人間とは言葉がなくては思考することもできないと申しましたが、しかし必ずしもそうとは限らないのです。言葉を使わずに言葉を使うこと、言葉を使わないことで逆に何かを伝えることもできるのです「

  ***

 店長が、空のグラスに目配せをした。私は、飲み物はもう結構、と言った。店長は微笑み、小さく礼をした。
」当店のサービスについてここまで長々とご説明してきたわけですが、ご理解頂けたでしょうか?「
 私は肯定の返事をする。
」いかがでしょうか。お客様のお役に立てることがあるでしょうか?「
 店長はそう言って、どこか怪しげな笑みでこちらを見た。私は腕組みをした。
」……失礼ながらお客様、そのようなことをなさっても無駄なことですよ。簡単なことでございます。ご自身も、もうとっくにお気付きのはずです「
 店長にそう言われて、私は笑った。ここまでくれば、まあ別に驚きでもなかった。それもそうだな、ああ、分かっているさ、と呟いて腕組みをやめる。店長も私の顔を見て微笑む。
」お客様が警察の方であり、当店の商売を不法取引だとして、わたくしの身柄を拘束なさろうとお考えになっている、ということは初めから分かっておりました。ここにいらっしゃるまでに、店の周りに誰もいないことに驚きなさったことでしょう。申し訳ありませんが、お客様の仲間の方々には、お客様が本日ここにいらっしゃるということを忘れて頂きました。もちろんわたくしの言葉の力を使ってです。ですからどなたもいらっしゃらなくて当然なのです。お客様が窓の外を気にされたり、頭を掻いたり頬杖を突いたり腕組みをしたりなさっても何の意味もありません。合図を受け取るはずのお仲間はいらっしゃらないのですから「
 そう言われ、私は胸のポケットからゆっくりと拳銃を取り出し、店長に銃口を向けた。店長はそれでも表情を変えなかった。私だって分かってはいる。こんな物でどうにかなるような人物ではないのだ、この人は。
 私は銃を構えたまま、再び話に戻った。そこまで細かいところまで気が付いていたのならばなぜ私一人だけを来店させたのか、と店長に尋ねた。初めから私を店に近付けさせない方が、店長にとって都合が良いはずなのだ。
」わたくしが、お客様は当店のお客様だと判断したからです。つまり、当店はお客様のお役に立てると判断したのです。お客様は言葉についてある悩みを抱えていらっしゃった。それは誰かから浴びせられる言葉であり、ご自分が自分自身に投げつける言葉でもあったでしょう。そしてお客様は、言葉による復讐を望んでおられました。……頼んでもいないのに差し出がましいと思われるかもしれませんが、わたくしはそういった方の力になって差し上げたいのです。お客様は刑事である前に当店のお客様でありました。だからお呼びしたのです。むしろわたくしはお客様がご来店下さるようにと準備しておりましたよ。わたくしはお客様をお客様としておもてなししようと思ったのです。ただし、申し訳ありませんがお客様がコートに隠していらっしゃる小型カメラと録音装置は、ご来店と同時に機能を停止させて頂きました「
 私はその言葉に苦笑いを浮かべるしかなかった。そしてこの際だからと思って尋ねてみた。あなたが私に飲ませたカクテルには、いったい何が混入されていたのか、と。
」……なるほど、襟を直すふりをなさったあの時、おそらく喉に仕掛けた装置を確認されていたのですね。飲み込んだ物が体に吸収されなくなるような何かでしょう。なに、私がお出ししたのは遅効性の記憶改ざん薬に過ぎません。毒ではありませんよ……「
 やはりそんなところか、と私が思うと、店長は悪戯っぽく笑った。
」というのは嘘です。あのカクテルには、何も特別なものは入ってはいませんでしたよ。わたくしには、お客様を殺す必要もなければ、記憶を消す必要もありませんので「
 どうだろうな、と私は言った。そう言いながら後で私のことを消そうとしていたかもしれないのだ。
」本当ですとも。言葉を扱う職業上、わたくしは嘘はつかない主義なのです「
 たった今、というのは嘘です、などと自分で言っておいて何を言うのか、と私は笑った。店長もそれに気付いて苦笑いを浮かべ、話を続けた。
」わたくしはもうすぐここを去ります。バベルの塔を、頂上まで登ってみようと思うのです。ですからお客様にはわたくしを捕まえることはできません。つまり、お客様を殺したり記憶を消したりする必要がないのです「
 そう言って店長はまた笑い、さて、と話を切り替えた。
」腹の内がはっきりしたところで、改めてお訊きしましょう。当店がお客様のお役に立てることはございませんか?「
 結局腹の中のカクテルに何が入っていたのかははっきりしていないが、と私は冗談を言ってから、店長の質問に答えた。
 店長の話は、それだけでもう十分に私の役に立っていたのだ。私は言葉の支配から逃れることができ、同時に言葉を認めることができた。だから私にはもう取引の必要はない。そう伝えると、店長は左様でございますか、と大して残念そうでもない顔で呟いた。店長も最初からこうなることは分かっていた……と言うより、こうなるように私を誘導していたのではないかとも思えた。最初から最後まで完全に店長の掌の上で踊らされていたということが、やや悔しくも思えたが、しかし私が救われたことに変わりはない。
 店長の肩を狙って、拳銃の引き金が引かれた。すると銃口から、赤い色の液体が噴射する。店長の白いシャツに飛び散ったそのやや毒々しい色の液体は、さっき私の飲んだカクテルと同じ物だった。
 赤くなって死んだ店長は笑い、私もなかなか綺麗な血しぶきだ、と笑った。

  ***

 私は店長にカクテルの代金と、クリーニング代だと言って追加でいくらかのお金を渡し、店を後にする。
」お客様は言葉を持っていらっしゃいます。ですから独りではないのです、それに支配されない限りね「
 店長は最後に、そんな励ましめいた言葉を私に投げかけた。ありがとう、と私は短く返事をした。
 またのお越しをお待ちしています、と軽く頭を下げる店長の首筋に、ゴムでまとめた長い髪がさらりと揺れる。その顔には綺麗に赤く塗られた唇、そしてあの微笑みがあった。

 私は誰もいない深夜の街を歩く。地面に落ちた葉が秋の夜風に吹かれて宙に舞い、散っていく。それを見ながら、私はあることを思い出していた。
 世界は言葉ではなかったし、言葉は世界ではなかった。言葉とは赤くなって死んでいくものだった。だから私は言葉ではなかった。私はただ、私だったのだ。


 ちなみに、後日あのバーに再び赴いた私は、すでにもぬけの殻になった建物を発見したのだった。
 違法な商業活動を続けるユリ・ワカナなる人物。私はその足取りを再び追い始めた…………。




※この作品の「御伽度数」は65%くらいです。

《御伽ラジオ6》

 さて、やってきました御伽ラジオのお時間です。皆さんどうかお付き合い下さい。
 まずは今回も行きましょうか、「アリス飛び込む夢の音」! このコーナーではその名の通り、御伽アリスが見たいろんな夢を皆さんに紹介していきます。昨今の娑婆世界は、かつてないほどのワンダーランドと化しています。そんな世界で見る夢はまさに御伽話のようなのです。くだらないけどちょっと心温まる(かもしれない)夢の世界に、皆さんをご招待しましょう。

 ――お屋敷の長者さん――
 俺は長者だ。長者だから当然、豪華なお屋敷に住んでいる。ほとんど全財産を費やして建てた、超ハイクオリティ・オブ・ライフな屋敷だぜ。この屋敷さえありゃ生活には困らない。そんな屋敷。

 ある日、作業服みたいなものを着た男性が俺の屋敷にやってきた。太った男だった。男は俺にこう言った。
「このお屋敷はまずいです。ちょっとした地震ですぐに崩れます。首都直下型地震がきたら一発で吹っ飛びます」
「なんだって~!?」
「私どもに、このお屋敷をお売りください。お急ぎになった方が良いです。すぐにでも崩れます。ほら、こうやって柱を手で押してみると……」
 男はそう言って屋敷の柱を揺らす。
「おい、やめてくれ。分かった、売り払うことにする。しかし、どれくらいの額で?」
「この馬をあげます」
 男は近くに連れていた、おとなしそうな馬を示した。
「物々交換か。やけに古風だな。いつの時代だよ」
「まあそうおっしゃらず。この馬、実は優秀な競走馬なんですよ。競馬業界の連中になら、相当な額で売れるでしょう」
「分かった。では交換だ」
 そうして俺は屋敷と馬を交換したのだった。

 その後、俺はもらった馬を競馬に詳しい知り合いに見せた。すると。
「おい、これのどこが優秀な競走馬なんだよ。こんなのとても走れやしないぜ。駄馬だ、駄馬」
 その時初めて、俺は騙されたことに気が付いた。しかしもう遅い。今頃屋敷は、あの詐欺師の手から別の人間に売られ、俺に取り戻すことはできないだろう。
 途方に暮れ、馬を連れて歩いていると、変な制服を着た奴らにいきなり取り囲まれた。
「何だよお前ら」
「我々は、動物愛護団体を名乗る連中です。失礼ですがその馬、あなたのペットですか?」
「まあ、そうなるかな」
「しかし、どう見てもあなたにはその馬を幸せにできるとは思えない。どうなんだ? え? あんた、その馬の命を預かるんだぞ。責任持てるのか? ああん?」
「うーん、そう言われると確かにそうだなあ」
「そうだろう。よって、我々が馬を引き取らせてもらう」
「まあ、馬のエサ代も馬鹿にならないしなあ。しかし、タダで渡せというのはあまりにひどい話じゃないか」
「よし、ではこの反物をあんたにやる」
 制服を着た男は俺に薄汚れた感じの反物を渡す。そして連中は馬を連れてさっさとどっかへ行ってしまった。
「おい勝手に…………まあいいか。確かに馬より反物の方がまだ使い道がありそうだし」

 俺は反物を手に持って街を歩く。さて、屋敷を失った今、俺はどうすべきか。そんなことを考えていると、一人の女が俺に近づいてきてこう言った。
「もしもし? 突然ですけどその反物、どうしたんですか」
 女は俺の手の反物を指差している。
「ああ、動物愛護団体を名乗る連中に馬を一頭渡したら、これをもらった」
「まあ、それ、あなた騙されたのよ! こんなのただのぼろきれ同然の反物よ。馬一頭となんて、価値が釣り合うもんじゃないわ」
 そう言われると、確かに馬と反物では不釣り合いな気がしてきた。どうせ役にも立たなそうな馬だと思ってあまり不思議にも思わなかったが、さすがに馬がこんな汚い反物一つと交換されるなどというのはひどい話だ。だいたいあの制服の奴ら、見るからにインチキ臭かったじゃないか。何が動物愛護団体だ。ファック!
 怒りに震える俺に、女が言う。
「こんな反物、あなたが持っていても仕方がないでしょう。私に譲ってくださいな」
 確かに、こういう物は女性の方が使い道のあるものなのかもしれない。
「しかし、やはりタダであげるというわけにはなあ……」
「分かったわ。まあつまらないものだけれど、この蜜柑をあげましょう。甘くておいしいわよ。反物はおいしくないでしょ。あなたにとって損ではないと思うわ。なにせ、こんな価値のない汚い反物と交換なんだから」
「確かに言う通りだ。では交換しよう」
 こうして俺は反物の代わりに蜜柑を手に入れた。これなら後で食べることができる。取っておくことにしよう。

 俺は商店街を歩く。これから先の生活のために、どうすれば良いかと思考を巡らせていた。そうしてブラブラと歩いていると、ある店の前で俺の目に留まったものがあった。そこに売られていたのは、俺があの女に渡したものと同じ反物だった。間違いなく同じ生地、デザイン。それが、ものすごい高額で売られてるではないか!
 つまりこういうことだ。あの反物は実は高価なものだったのだ。俺は女に騙されて、蜜柑なんかとそれを交換してしまったのだ。
「オーマイ八百万ゴッド!」と叫ばずにはいられない。仕方ないので俺はさっきもらった蜜柑をやけ食いすることにした。皮をむいて中身を取り出した時、目の前に小さな女の子がいて、俺のことを見上げているのに気が付いた。何か物欲しげな顔つき。
「どうした? もしかして、この蜜柑が欲しいのか?」
 そう訊くと女の子は頷いた。
「あたしおなか減ったの。もう死にそうなの。みかんがあればまだ生きられそうなの」
 瞳を潤ませて、女の子はそう言う。そんなことを言われれば、俺だって一応大人だから、蜜柑の一つくらいくれてやろうというものだ。
「そうか、分かった。ほら、これ食べて厳しい社会を生き残りな」
 蜜柑の中身を女の子に渡すと、女の子はそれを一瞬のうちに飲み込んでしまった。
「おじちゃん、ありがと。お礼にこれあげる」
 女の子が寄越してきたのは、一本のわらしべ。先の方に一匹のアブが結ばれている。なるほど、子どもの遊び道具なんだろう。かわいいじゃないか。まあ、一体いつの時代の遊び道具だよ、とは思うが。
「ありがとうな。おじちゃん嬉しいよ」
 別にこんな物もらっても嬉しくなんかないのだが、相手は子どもだ。俺だって気を遣うさ。大人だからな、当然だろ。
 女の子は手を振って走っていった。しかししばらく行くとこちらを振り返る。それから俺に向かってこう叫ぶ。
「やーいやーい、馬鹿おやじ~! 死にそうなんて嘘に決まってんじゃん。騙されてやんの、アハハハ!」
 な……んだって? この俺が、騙されただと? いや、今までにかなりの回数騙されているが。しかしあんな小さい女の子に騙された? どうしてこうなるの?
「おーい。みかんの皮は馬鹿おやじにあげる。ありがたく思いなよ!」
 女の子はそう言って駆け出す。追いかけてやろうかと思ったが、すぐに小さな背中は人込みに紛れて見えなくなってしまった。俺は独り立ち尽くし、手に残った蜜柑の皮を眺める。
「食えるかこんなの! ドチクショウ!」
 俺は蜜柑の皮を地面に叩きつけた。

 これで、俺のもとに残ったのはアブのくっついたわらしべ一本。公園のベンチに座ってそのわらしべを眺め、悲しみに暮れていると、不意に強い風が吹いて、アブを結びつけていた結び目がほどけてしまった。体の自由を取り戻したアブは空に舞い、そしてわらに結びつけられ、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害されたことに対する怒りを俺に向けた。違う、お前をそんな目に遭わせたのは俺じゃないんだ。分かってくれ。待て、話せば分かる……。
「ぐぁ」
 俺はアブに刺された。しばらくすると、かゆみと言うより痛みに近いものが俺を襲う。身もだえし、ゆっくりと悲しみに暮れることさえできなくなった。その間にアブは鬱憤を晴らしてすっきりしたのか、どことなく清々しい顔で去っていった。

 さて、これで残ったのは本当に一本のわらしべだけだ。もう終わりだ。俺は「逆わらしべ長者」だ。ああ、世の中厳しいもんだなあ。もう何もしないでさっさと寝てしまおう。そう思って俺が公園のベンチに横になると、どこかから声が聞こえた。
「た、助けてくれぇ!!」
 声がした方を見ると、一人の恰幅の良い男が、公園の池で溺れている。足を滑らせて落ちたらしい。その男以外で公園にいるのは、俺だけだった。つまり、俺が助けなくては!
 俺はわらしべを置くのも忘れて急いで池に近付き、溺れる男に向かって手を伸ばした。
「おい、早くつかまれ!」
 しかしあと数センチで男には届かなかった。どうすれば良いんだ、そう思った時、俺の手に握られたままのわらしべが目に入った。そうか、これだ。俺は男に向かってわらしべを伸ばした……!

 俺が助けた男は、どこかの金持ちのおじさんだった。恰幅が良く、人の良さそうな男は、その見た目のまんま確かに人の良い人物だった。お礼に男が持つ立派な屋敷を一つ俺に譲ってくれることになった。
 その屋敷とやらを見せてもらうと、それはなんと、俺が詐欺師に奪われたあの屋敷だった。そうか、金持ちの男は詐欺師から屋敷を買っていたのだ。それを今度は俺が譲ってもらう。まあ、おかしなこともあるもんだ。
「本当にこの屋敷をもらって良いんだな?」
 一応そう確認をとる。もらうも何も、もとは俺のものだったんだが。
「ええ、あなたは命の恩人ですから。ぜひ受け取ってください」
「じゃあ、ありがたくもらい受けることにするよ」
 金持ちの男はその後も何度もお礼を言いながら帰っていった。まったく、世の中分からないものだな。ああいう良い人だって、ちゃんといるんだ。他人を騙すような悪い奴らばかりじゃないのさ。うん、そうだそうだ。

 一週間後、小さな地震が発生した。俺の屋敷があるあたりは震度2くらいの揺れだった。地震があった時、俺はちょうど出かけていたのだが、しばらくして屋敷に帰ってみると、そこに屋敷はもう無かった。残されていたのは、もとは屋敷だった瓦礫の山だけだった。
 今思えば、俺が助けたあの恰幅の良い男、声に聞き覚えがあったのだ。おそらく顔は変装していたのだろうが、あの体型は隠せない。声もそっくりだった。そう、あの詐欺師だ。つまり。
「また騙されたぁあああ」ってことだ。

 ……そこで夢から覚めた。


 いかがでしたでしょうか。「つまんな~い! つか長ぇよ!」とか言う人はいつも通り放っておきましょうね。

 さて続いて、前回始まったコーナー、「雰囲気で覚えるわくわくアリス語講座」のお時間です。前回は初回にもかかわらず、リスナーの皆さんから大きな反響がありました。もうクレームの嵐で、すごい反響でしたよ。ってことで、今回も心臓の弱い方はぜひお付き合い下さい。さてこのコーナーでは、御伽アリスが使う(ことがあるかもしれない)アリス語を、一日二十時間、およそ三千年かけてじっくりと、リスナーの皆さんと一緒にマスターしていこうと思います! 日常生活でよく使うキーアリスワードを、毎回ひとつずつ取り上げて、雰囲気で覚えていきましょう。
 今回のアリス語は、「やだがる」です。この言葉はですねえ、何と言うか、こう、「やだなあ」みたいな? 気分が、まるで、その、「やだなあ」的な? 乗り気ではないなあ、とか。嫌気がさすというか、モヤモヤ、ムズムズ、ウズウズ、ズーン、とする感じです! そんな動詞です。あ、「嫌がる」とおんなじ意味かも。あれ、じゃあ「嫌がる」で良いじゃん。わざわざ「やだがる」を使う必要ないじゃん。どういうことでしょうね。ま、いいか。
 はい、具体的な使い方を見ましょう。赤ちゃんは何か気に入らないことがあると、泣くことでそれを表現しますね。お母さんは必死で赤ちゃんを泣きやませようとあやします。そういう時、「やだがる」を使います。

「オギャー、ウギャアー」
「あらあら、どうちたのぉ、みっちゃん~? 何をやだがっているのかしら? お酒が欲しいのでちゅか? イケナイ子でちゅね~。はい、ちょっとだけよ」
「ブエエエ! ウエエン!」
「あら、お酒はやだがるのでちゅか? じゃあお煙草でちゅか? イケナイ子でちゅねえ」
「ウワアアア! ブルゥワアア!」
「煙草もやだがりまちゅか。じゃあ何よ、はっきり言ったらどうなのよ!」
「ミルクに決まってんだろ、母上、愛してるぜい!」
「……みっちゃんは犬でしょ。どうして犬がしゃべっているんだ?」
「ちっ」

 と、最後は「やだがる」と関係ないような気もしますが、とにかくこのように使います。このように「やだがる」は日常会話において頻繁に使うキーアリスワードなんですねえ。皆さんもぜひ覚えて、思わず人前で言ってしまって恥をかきましょうね。

 さて、今回は盛りだくさんで忙しいですね。さらなる新コーナー! 「アリスのお悩み相談所」です。このコーナーは、御伽アリスが抱える悩みを、リスナーの皆さんに聴いてもらって、どうにか解決策を教えてもらおうという、ようなものでは決してありません。普通にリスナーの皆さんの悩みに御伽アリスが耳を傾け、耳がどんどん傾いていって360度回転して元通りになったらやめる、というだけのコーナーですね。ハイいきなり意味分かんないぞ。
 「アリスのお悩み相談所」のコーナーでは、リスナーの皆さんから「お悩み」を応募いただき、その中から御伽が気に入ったものを紹介します。紹介するだけです。僕がその「お悩み」に対して解決策を提示できるという保証はありません。単純に面白がりたいだけなのです。リスナーの皆さんには、できれば笑っちゃうような「お悩み」をご応募いただければと思います。
 ではさっそく紹介しましょう。ラジオネーム、「笹水七月」さんからのお悩み相談。

 最近の悩みは舌がうまく回らないことです。
「ななのにななのめななななの」
 ……早口言葉を言うとこの有様です。(涙)
 その上無理に治そうとすると舌が回りすぎて反転したり、捻れてしまったり、気づいたら二枚舌になってたりなど、いろいろ困ったものです。
 これって舌の反抗期なんでしょうか?

 とのことです。はあ、つまり舌がうまく回らないということですね。「ななのにななのめななななの」って、もしかして「隣の柿はよく客喰う柿だ」っていう早口言葉でしょうかね。あ、違う? それにしても二枚舌にまでなるとは相当な重病ですね。
 まあでも誰にだって反抗期はありますから、放っておけばそのうち治るんじゃないですか? と、舌だけになめてかかると後悔しますよ。苦汁をなめることになります。これはもう、本気で治すしかないです。臥薪嘗胆あるのみ!
 さて、このように適当にまとめてみましたがこれで良かったのでしょうか。まあ頑張ってください。「生首は生ごみ、まだ生温かい」くらいの早口言葉はちゃんと言えないと社会に出て恥ずかしいです。御伽アリスは「笹水七月」さんを応援してますよ! 頑張って!

 それでは今回はこのあたりでおしまい! そろそろ本気で打ち切りになってくれないかと考えていますが、闇の組織の根回しがあってまだ続いているこのラジオ。リスナーの皆さんも、これを聞いている時点で闇の世界の仲間ですよ。一緒に楽しもうぜ。
 では打ち切りにならなければまた次回お会いしましょう。左様なら~!

Re: オ言葉屋サン(無修正ver.) - 三水夏葵

2014/01/10 (Fri) 13:09:20

御伽ラジオ、今回も面白かったです。
とんだ「逆わらしべ長者」でしたね。絶望につぐ絶望ですよ。

それと。
お悩み相談、結局解決策はないんかい!

以上です。

Re: オ言葉屋サン(無修正ver.) - 松村涼哉

2014/01/21 (Tue) 23:38:37

もうラジオだけを書けばいいんじゃないでしょうか?
面白かったです。発想が。

Re: オ言葉屋サン(無修正ver.) - 御伽アリス

2014/01/23 (Thu) 17:59:25

> 三水夏葵さん、松村涼哉さん
わざわざコメントしてくれてありがとうございます。
すこしでもラジオを楽しんでもらえていると分かって、とても励みになります。
これからもできる限り続けたいと思います。

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